中学生:Why don’t ・・・

Why don’t you like it?(塾だより11-12月号)

 

タイ国内のプロサッカーチームであるバンコクスポーツクラブとサトリアーントーンは、カップ戦の決勝進出をかけて戦っていました。2対2で決着がつかなかったので勝負はPK戦にもつれこみました。そして、各チーム19人ずつが蹴って全員が決めた19対19という緊迫した場面で、バンコクスポーツクラブの20番目の選手はシュートを打ちました。キッカーが蹴ったボールは、ゴール上部のクロスバーに当たって空高くはじかれてしまいます。キーパーは仲間たちのところへ駆けよりながら跳び上がって喜びます。
と、そのとき、上空から落ちてきたボールが地面にバウンドし、バーの角に当たったときにかかった強力な逆回転で、ゆっくりと3回跳ねながらゴールに近づいていきます。味方に言われたのか、ゴールを振り返ったキーパーが気づいてあわてて駆け戻りますが、ボールはすでにゴールに吸い込まれるところでした。サトリアーントーンの20番目の選手はこのゴールにショックをうけたのか次のシュートを失敗し、20対19でバンコクスポーツクラブがPK戦を制し勝利したのでした。

 

フロリダで行われた人種差別的な言動を繰り返す極右団体の集会に、ランディーという白人の若者が参加していました。周辺にはその集会に抗議する人たちがあふれ混乱しています。その中を一人の黒人男性がランディーに近づいていきます。そして、彼に接近すると手を伸ばしました。が、武器を取り出すこともなく、攻撃する代わりになんとランディーを何度も抱きしめたのです。そして聞きました。「Why don’t you like me?(なんでおれのことが嫌いなんだい)」その黒人男性は名をアーロンといいました。
さて、知らない黒人の男にハグされ、(といっても日本だったら握手程度の感覚かもしれませんが)いきなりこんな質問を投げつけられて、ランディーはいったい何と答えたと思いますか。

最初は嫌そうに抵抗をしていた彼が口にした答えは、「わからない」でした。自分が差別している黒人をなぜ嫌いなのか、それが「わからない」というのです。たいした理由もなく差別をしていたことに気づいたランディーは、最終的に自分から腕を回しアーロンをハグしました。

 

私たちのまわりにはわからないことがたくさんあります。常識で考えれば絶対に入らないはずのシュートがゴールになったりします。サッカーだけではありません。常識では絶対つぶれないとか、不正なんかするはずがないと思われている日本の超有名企業が、長年にわたって、社会をだましつづけたりしたことがつい最近わかってきています。人のことを嫌ったり差別したりしているのに、なぜと聞かれると「わからない」としか言えないことがあります。「肌の色が違うから」とか「目が細いから」といって相手のことをバカにしても、それが何で差別の理由になるのかなんて、もとから上手な説明のしようがありません。

大人だってそうなのです。中学校で学んでいるみなさんが、わからないことがあるのは当然です。大人も子どもも、「わからないことがある」ということを、まずはしっかり認め、それを前提にして行動する必要があります。
しかし、「わからないこと」と「できないこと」は、決して同じではありません。ボールの行方を最後の最後まで見ているだけで、あのゴールは簡単に防ぐことができました。自分が理由もなく人を差別していることをランディに気づかせてくれたのは、たったひとつの問いかけと「おれは君のことを嫌っていないよ」という、声すらいらない意思表示でした。アーロンは言っています。「これは正しい判断をさせるための第一歩だよ。1つのハグが世界を変える。これってシンプルだろ。」

わからない問題ができるようになるとか、なかなか上がらない成績が上がる。そんな私たちにとって切実な課題も決して難しいことではなく、実は何かとてもシンプルな行動によって達成できるのではないでしょうか。

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