「なぜ」から始まる学力向上(中学生:塾だより9-10月号)

 中学校の定期テストや高校入試で地味に問われる都道府県、中でも都道府県名や県庁所在地名を覚えることに苦労している人は多いと思います。塾では「社会科コンクール」というイベントで小学生の頃から練習していますので、それで身につけたという人も多いのではないでしょうか。当然、今年度も小学生は社会科コンクールを実施したわけですが、例年質問される市があります。県庁所在地名の中でもひときわ目立つ「さいたま市」です。県庁所在地名の中ではただ1つのひらがなということで、インパクト抜群です。なぜここだけひらがななのか、それを問われるわけです。

 さいたま市は2001年(平成13年)5月1日に、元々の県庁所在地であった浦和市と、大宮市・与野市の3市が合併して誕生しました。最近まで、新しい市庁舎を浦和と大宮のどちらに建設するか対立していましたが、今年の4月末、さいたま新都心(大宮区)に建設することに決まったとの報道を覚えている人もいるかも知れません。

 さて、話を合併当時に戻しましょう。2001年というのは、ちょうど「平成の大合併」といわれる、1999年から政府主導で進められた全国の市町村合併の期間中にあたります。この後、2010年までに全国の市町村の数は、1999年の3232から1727まで半分近く減少しました。政府がなぜ市町村合併を進めたのかはここでは触れません。中3の公民分野で学習しますが、中1・2生のみなさんもぜひ調べてみましょう。

 平成の大合併では、数多くのひらがなの市が誕生しました。千葉県内にも「いすみ市」があります。ひらがなの市名は、親しみやすさといった理由から決まったものが多いようですが、前述のさいたま市では以下の理由が公式に発表されています。

  1. 平仮名の「さいたま市」は、誰からも埼玉県の県庁所在地であることが分かり、かつ新都市名が浸透しやすいこと。
  2. 続日本紀や万葉集にもその名が散見され、古くからの歴史と伝統に秘められた「さいたま」の名を後世に残すためにも新市の名称としてふさわしいこと。
  3. 応募数(※)67,396人のうち、漢字の「埼玉市」、平仮名の「さいたま市」の2つの案を合わせて10,938人からの応募があり、多くの人々がこの名称をふさわしいものと考えていること。(※事前に市民に、新市名について公募が行われました。)
  4. 漢字の埼玉県と区別すること。
  5. 市名から受ける感じをやさしく柔らかくするイメージがあること。

 このうち、4.に注目してみましょう。埼玉県北部の行田市には「埼玉(さきたま)」という地名が残っています。歴史の教科書に登場する「稲荷山古墳」は覚えていますか。ワカタケル大王の名が刻まれた鉄剣が出土したことから、近畿地方にあった大和政権の支配が、遠い東国まで及んでいたことを示す根拠の1つとなった遺跡です。実はこの古墳は「埼玉(さきたま)古墳群」と呼ばれる古墳群の中にあります。そして、万葉集にもこの地域は「さきたまの津」と記されており、行田市は「埼玉(さきたま)」の発祥地といわれています。こうしたことから行田市は、「さいたま」と「さきたま」の区別がつきにくいことから、「埼玉市」という名称を採用しないでほしいと要望を出し、協議を重ねた結果、ひらがなの「さいたま市」になったという話があります。

 さいたま市がひらがなになった理由は、一言で説明することが難しい複雑なものです。しかし、なぜなのかという問いから調べていくと、その課程には「平成の大合併」や「稲荷山古墳」といった中学校で学ぶ知識も浮かび上がってくるのです。こうして知識と知識が結びついていくことで理解が深まり、より複雑なことを考えられるようになります。知識をたくさん持つことは大切ですが、それ以上に、知識同士の結びつきから、物事の理由や仕組みを深く理解することが重要です。

 最近のテスト問題を見ていると、教科を問わず深い理解を求めるものが多いように思います。こういった問題に対応する学力を身につけるには、日頃から点と点を結びつける訓練をすることが必要です。「なぜ」、「どうして」という問いから始まり、調べたり、教わったり、聞いたりすることを通じて、知識と知識を結びつけながら結論を目指す、そしてそのために一生懸命に考える習慣をつけましょう。今回例にあげた話のように、明確な答えがない問題も多いですが、正しい結論にたどり着けたかということより、どれだけ考えをめぐらせられたか、どれだけ多くの知識を結びつけることができたかが重要です。

 これからの時代に求められる力は、こうしたことの積み重ねで得られるはずです。まずは日々の学習や生活の中で、よく考えることを実践していきましょう。