想像力を高めよう(中学生:塾だより9-10月号)

スマートフォンが普及し、SNSが広く使われるようになってから10年ほどになります。何らかの形でそれらを利用した人も多いのではないでしょうか。また、YouTubeなどのネット動画も一般的になり、テレビよりネット動画を見るほうが多いという人も珍しくなくなってきました。私もそのひとりです。報道番組などを除いてテレビはほとんど見なくなってしまいました。振り返ると改めて時代の変化を強く感じます。

新しいものが普及すると便利になることが多い反面、負の面多く出てきます。例えばSNSやネット動画では、いわゆる「炎上」の発生が多くなってきました。少し前の話になりますが、2013年頃に「バイトテロ」と呼ばれる行為が相次いで起こりました。これは飲食店などに勤務するアルバイト従業員が、勤務先での悪質ないたずらを撮影し、SNSに投稿するという行為を指します。一部の事例は全国的なニュースとなり、企業や店舗が閉店に追い込まれたり、関係した本人も個人情報が特定されたりするなど大きな社会的制裁を受けることになりました。その行為がどんな結果につながるのか、そんな想像力を欠いたほんの出来心のいたずらが、それでは済まない重大な結果になってしまいました。また、昨年の春にはネット上のデマ情報から、一時的にトイレットペーパーなどの紙製品が店頭からなくなるという「事件」もありました。

SNSやネット動画は誰でも気軽に投稿することができます。そして投稿されたものは、スマートフォンなどから気軽に閲覧や視聴をすることができます。そのとき、情報の送り手と受け手のそれぞれに「想像力」が求められます。前者のような「炎上」は、情報の送り手に想像力が足りなかったために起きたのだと思います。文書を投稿するとき、あるいは動画を撮影したりアップしたりするときに、それがどんな結果を招くのか、見た人がどう感じるのかをしっかり想像していれば、「炎上」の多くは起きなかったのではないでしょうか。また、受け手の多くに十分な想像力があれば、店頭からトイレットペーパーの在庫がなくなることはなかったのではないでしょうか。

このコロナ禍で、人と人とが直接会えないことが増えています。昨年には長期の休校で学校や塾に通えない日々もありました。今は辛うじて通うことができていますが、またいつ休校ということになるか分かりません。そうこうしているうちに、リモートが一般的になりつつあります。ZOOMなどを利用したオンライン会議・オンライン授業がずいぶんと普及してきました。この流れはコロナが収まったとしても、形を変えながらある程度は残っていくのではないかと思います。

人と人とが対面で会っているときは、単に相手の話を聞くだけではなく、表情や声色、仕草などから様子をうかがい知ることができます。学校や塾の授業であれば、教室の空気感みたいなものも感じられます。こうした多くの情報から状況を分析し、相手や周囲のことに想いを巡らせることで多くのものを得られます。そうすることで、コミュニケーションが円滑になったり、相手や話題への理解が深まったりします。

しかし、これがオンラインになってしまうと得られる情報が大きく減少し、想像力を十分にはたらかせることが難しくなります。コミュニケーション不足になってしまったり、授業であれば、理解が不十分になってしまったりする可能性が高まります。オンラインで対面と同じ効果を得ようとすると、より一層の想像力が必要になります。画面や音声から得られる限られた情報から、より深く相手や周囲のことに想いを巡らせなければなりません。それはとても大変なことです。対面と比べて効果的にも厳しいものがあります。なるべく対面での授業が続けられればと切に願っています。

この文書を読んでいるときは、ちょうど前期期末テストが終わったか、もしくは終わる頃ではないかと思います。定期テストの問題は学校の先生が作成するわけですが、どんな問題が出題されるのかを想像してみた人はどれくらいいるでしょうか。担当の先生の普段の話しぶりや板書内容から、先生が何をみなさんに伝えたくて、そしてそこからどんな問題を出題してくるのか、想いを巡らせて考えてみた人はいるでしょうか。もちろん、先生が授業で強調しているものほど出題されやすい、というほど単純ではないでしょうが、こういったことに想像力をはたらかせることは決して無駄ではないと思います。普段会っている先生が作成する定期テストだからこそ、想像力があると優位に立てる場面はあるのではないかと思います。

中3生はあと半年もしないうちに高校入試を迎えます。今度の高校入試は新教科書になってから最初の入試となります。ずいぶん前の話ですが、新教科書になってから最初の高校入試で、公立入試の平均点が大幅に下がったことがありました。今度の入試が同じ状況になるかは分かりませんが、入試に出そうな内容、押さえておくべき情報量は確実に増えています。今後の授業で取り上げる内容の多くは、入試までの間にその一度の授業でしか扱われないものです。より重要な内容は繰り返し何回か扱いますが、それでも数回でしょう。今教わっていること、そして今しか教わらないことが高校入試に出てくる、そしてそのとき自分は解けるだろうか、そんなことを想像してもらうと、1つひとつの内容がどれも重要なものであると気づけるはずです。そうすると、1つひとつへの取り組む姿勢も変わってくることでしょう。もちろん、それが成績の向上につながることは言うまでもありません。そして高校入試の結果にも…。

これからの時代は、これまで以上に想像力が求められます。それはSNSやスマートフォンを利用するときだけでなく、日頃塾や学校で過ごしているときにも要求されるのです。自分の言動がどんな結果をもたらすのか、またどんな未来につながるのか、そんなことに想いを巡らせ、行動できる人になってもらいたいと思います。それは我々大人も同様です。お互いに努力を重ね、想像力を磨いていきましょう。