スマホが学力を破壊する(中学生:塾だより1-2月号)

 新年明けましておめでとうございます。2022年も新型コロナウイルスによる混乱の終息は実現せず、ウクライナ情勢を始めとして、世界でも先の見通しが難しい状況が続いています。さて今年、2023年はどんな1年になるでしょうか。期待より不安が大きい人の方が多いかも知れませんが、未来は確実にやってきます。そこで力強く生き充実した毎日を送るために、そして近い将来出会った目標と向き合うためにも、今は日々やるべきこと、できることをしっかりと積み重ね、力を蓄える時です。

 身につけるべき力にも様々なものがありますが、塾では主に「学力」そしてその土台にある「賢さ」を身につけてもらいたいと思います。そのために我々も引き続き取り組み、共に明るい未来に向けて歩んでいきます。本年もよろしくお願いします。

 賢くなり、学力を身につけるにはどうすればよいのでしょうか。そして成績を上げるにはどうすればよいのでしょうか。みなさんはこれまでも勉強の量を増やすこと、勉強のやり方を変えることをはじめとして、様々な方法を考えて実践してきたと思います。これらは取り組みによる学力の「プラス」を期待した取り組みと言えます。

 こうした取り組みで実際に成績が上がり、学力の向上を実感した人も多いと思います。しかし一方で、ほとんど成績が上がらず、どうすればよいのか苦心している人がいるのも事実です。この差の原因は何でしょうか。まず考えられるのは、勉強の量がまだ足りない、もっとよいやり方があるという可能性です。これにあてはまる場合は、さらに「プラス」を上積みできる余地があります。しかし、これらが原因ではない場合「プラス」はもう十分かも知れません。そうすると次に考えられるのは「マイナス」面です。学力の「マイナス」低下を招く要因があることは考えられないでしょうか。

仙台市では長年に渡り「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」が実施されています。その中では学力検査や生活・学習状況調査が行われており、分析結果から得られた情報は、毎年リーフレットにまとめられて市民に公開されています。これらは仙台市のホームページから誰でも見ることができます。ぜひご覧下さい。
【「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクト:仙台市】

 さて、これらのリーフレットの中に「スマホや携帯電話の使いすぎは勉強の効果を打ち消す!?」というものがあります。これは平成25年度に中学生向けに発行されたものですが、その中に右のようなグラフがあります。

①は「平日30分未満しか勉強しないけれど、スマホや携帯電話を全く使わない生徒」、②は「平日2時間以上勉強するけれど、スマホや携帯電話を4時間以上使う生徒」、③は「平日2時間以上勉強していて、スマホや携帯電話を使う時間を1時間未満に抑えている生徒」です。注目は①と②の比較です。②の生徒は平日2時間以上勉強しているにも関わらず、①の平日30分未満しか勉強しない生徒よりも成績が悪くなっています。せっかくの勉強の効果が、スマホや携帯電話を長時間使うことで打ち消されている恐れがあると、この資料では論じられています。

スマホや携帯電話を使う時間ごとに見た数学の平均点 http://www.city.sendai.jp/manabi/kurashi/manabu/kyoiku/inkai/kanren/kyoiku/documents/h25sumaho.pdfより

 スマホの長時間利用は学力面で「マイナス」になるということを、何となく分かっている人が多いと思いますが、実態はもっと深刻です。ではなぜ、スマホの長時間利用で成績が下がってしまうのでしょうか。この原因について、仙台市のプロジェクトを主導されている東北大学の川島隆太先生(千葉県千葉市のご出身です。)は、2022年8月に発行した『オンライン脳』という本の中で、以下のように述べられています。

  • スマホやパソコンによる「オンラインコミュニケーション」は、情報を伝達できても心が通いあわず、対面によるコミュニケーションで自然に生じるような互いの共感・協調・協力関係などを、うまく築くことができない。
  • 「スマホやパソコンなど双方向型のデジタル機器を長時間―おおむね毎日1時間を超えて使っている子どもたち(幼児や小中高生)」は、それほど使っていない子どもたちと比べて、確実に学力が低くなっている。デジタルテレビなど一方向型でも、双方向型ほどではないにせよ、必ず悪影響が生じる。
  • 前述の子どもたちの脳は、大脳灰白質(大脳皮質)と大脳白質の発達が遅れる。毎日の使用が3~4時間以上の子どもでは、ほとんど発達が止まっている。

(『オンライン脳―東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』 川島隆太著 アスコムより一部抜粋)

 1つ目の内容は、ZOOMなどを利用したオンライン授業では学力の向上が難しいことの理由になると思います。2つ目は前述のグラフの通りです。3つ目については、極論すると、スマホの使用を1日1時間未満にとどめた中学3年生は脳が小学6年生から順調に発達したので、中学3年生相当の脳を持っている一方、3年間スマホを毎日頻繁に使っていた中学生は脳が小学6年生から発達しなかったので、中学3年生にも関わらず脳は小学6年生相当のままであると川島先生は述べられています。

 これでは勉強をしようがしまいが、食事や睡眠といった生活習慣を改善しようが学力が上がらないのは当然というわけです。川島先生の著書には、他に『スマホが学力を破壊する』といったものもあります。本文のタイトルにも使わせていただきましたが、仙台市のホームページで公開されている様々なデータを見ますと、その言葉も決して大げさなものではないと個人的には感じてしまいます。

 前述の川島先生は著書の中で、未成年のスマホ使用は「1日1時間まで」と提唱されています。この1時間までにはテレビやゲームなどの時間も含まれ、この1時間は1日の累計時間とのことです。さらに、勉強中など何かに集中すべきときは、電源を切るなど物理的にスマホを遠ざけることが必要だとも述べられています。何かに集中しようというときに、SNSの通知が鳴るなどして妨害が入り、別のことをやり始めることが繰り返されると、1つのことに集中できる時間が極端に短くなる、この現象を心理学の用語で「スイッチング」というそうです。スマホを近くに置くだけで、このスイッチングが起こりやすく学力低下の原因となるようです。

 2023年は学力向上の年にしましょう。「プラス」面については既に相当ながんばりを続けてきた生徒が多いでしょう。一方で「マイナス」面にはあまり目を向けてこなかった、そんな生徒も少なくないのではないかと思います。1年の始まりに、学力を上げるためのスマホ等との付き合い方について、保護者の方も含めてしっかり考えることが必要ではないでしょうか。