10分だけ、がんばろう(小学生:塾だより5-6月号)

「やる気あるの?」

と聞かれたことはありませんか。わたしも小学生のころからじゅくに通っていましたが、宿題をわすれたり、テストの点数が悪かったりすると、よく先生にこう聞かれたものです。こまったことに、こういう質問しつもんをされるのは、たいてい私にやる気がないときなのです。しかし、

「ありません。」

と答えたら、しかられるに決まっています。だからしかたなく、

「あります。」

と答えるのです。実はこの質問、質問であって質問ではないのですよね。この言葉の本当の意味は、

「きみ、やる気がないだろう。今すぐやる気を出しなさい!」

ということなのです。私としても、「やる気」を出したいのは山々です。しかし、いざ「やる気」を出そうとしても、どうすれば私の「やる気」が出てきてくれるのか、皆目かいもく見当がつきません。かばんの中からテキストを出すのとはちがいます。「やる気」って、一体何でしょう。どうすれば出てくるものなのでしょうか。

 まず、「やる気がない」ときの気持ちについて考えてみましょう。「やる気がない」、つまり、やりたくないと感じる原因げんいんはどこにあるのかと分析ぶんせきすると、多くの場合、「いつ終わるかが予想できないこと」と「上手くいかなかったときのストレスが予想できること」の二点が、大きな障害しょうがいになっているのではないかと思います。終わりが見えないのは、だれにとってもつらいことですし、「できない」「わからない」と苦しむ自分の姿すがた想像そうぞうして、ゆううつにならない人などいないでしょう。「やる気がない」と感じるのは、あなただけではありません。いつでもやる気にちあふれている人など、どこにもいないのです。するべきことをきちんとこなせる人というのは、「いつもやる気がある人」ではなく、「やる気がなくなったときの対処法たいしょほうを知っている人」だと言えます。

 では、「やる気がない」ときは、何をすればよいのでしょうか。「やる気」をさまたげる二つの障害をなくしてやればよいのです。

 そこでおすすめしたいのが、『10分しかがんばらない! ゲーム』です。一度、だまされたと思ってやってみて下さい。

 まず、あなたがやる気になれない何かを用意します。どんなものでもかまいませんが、計算ドリルや漢字の書き取り、暗記しなくてはならない英単語えいたんごのリストなど、成果せいかのわかりやすいもののほうが効果的こうかてきです。取りかかる前に、全体のりょう確認かくにんしましょう。そして、「絶対ぜったいに10分しかがんばらない」と心にちかいます。「10分後には楽になれる」と思うことで、取りかかる前のハードルが下がり、「10分しかない」と思いこむことで、集中力を高めることができるからです。時間を確認したら、10分間だけがんばりましょう。このときの10分間は、とにかく集中し、全力で取り組んで下さい。そして10分たったら、本当に手をとめます。手をとめた後は、自分が10分間でどれだけできたかを確認しましょう。

 実際じっさいにやってみると、「思ったより進んだ!」と思うことがほとんどではないかと思います。たった10分集中するだけで、こんなにもはかどるのだ、ということが実感できれば、もう半分、終わったようなものです。のこりの量を確認しましょう。「あと○○分がんばれば終わりそうだ」と、大まかな予想がつくはずです。終わりが見えれば、「いつ終わるかが予想できない」という一つめの障害からは解放かいほうされます。

 ときには「全然ぜんぜん進まなかった」とがっかりすることもあるでしょう。そんなときは、なぜ進まなかったのか、原因を考えてみましょう。問題の解き方が分からないのであれば、塾に質問に行きましょう。暗記が進まないのであれば、暗記のコツを教えてもらいましょう。困ったときは、先生をたよればよいのです。一人で苦しみつづける必要ひつようはありません。

 こう考えると、少し気持ちが楽になりませんか。やる気がおきないときは、「10分だけ」と決めて、手をつけさえすればよいのです。終わりが見えてくればやる気が出るし、終わりが見えず、「できない!」と困ることになったとしても、先生に助けをもとめればよいわけです。

 「ゆううつというのは、困ることを困ること」

と言った人がいます。私の
大好だいすきな言葉です。ゆううつだな、と感じるとき、実際のところは、まだ困っているわけではないのです。これから困るであろうことを想像し、勝手に先まわりして困っているだけなのです。

 「やる気がない」というのにも、同じことが言えるのではないでしょうか。わたしたちが一番つらいと感じる瞬間しゅんかんは、「実際にそれをやっているとき」ではなく、「やりたくないと思っているとき」なのかもしれません。なかなかやる気になれないときは、「10分だけだから」と自分に言い聞かせ、思い切って手をつけてみましょう。案外あんがいあっさり終わってしまって、

 「なぁんだ、こんなものか。」

と、ひょうしぬけするかもしれませんよ。